本当に大事なことは水が教えてくれるアニメ、今週は黒髪クソめんどくさ女青春の旅路総括編。
原作第14話の結論を大きく変えて、第7話に繋いで収めるという、かなりトリッキーな再改変が行われている話でした。
これを貫通させるべく、『過去と現在の願い』というモチーフを独自に導入してお話の大きな軸とし、てこの出会いと成長を振り返り未来に繋げていくエピソードに仕上げていました。
原作とは違うけど、原作のテイストやテーマをしっかりと継承し、自然どころかより"あまんちゅ!"らしいお話を創りだす妙味。
アニメーションとして作品を語り直す醍醐味が詰まった、良いエピソードだったと思います。

今回のお話はてこがプール講習を順調にこなし、以前は出来なかったマスククリアを乗り越えたところから、『泳げない』という欠点で立ち止まる展開になっています。
原作だと別角度から試練を課すことでてこの成長を確認していたわけですが、今回は失敗は失敗として認め、水から上がって道の駅へと向かっていく流れに繋がる。
つまり原作の展開では『成功』していた行為が『失敗』しているわけで、その変化にはこのエピソードが何を語りたいのか、製作者の意図が詰まっているはずです。

てこは自己評価が高い割に勇気がない子で、かつ周囲に迷惑をかけることを極端に恐怖しています。
部活の仲間はド素人のてこが一歩ずつ巧くなっている様子を好ましく思っているのに、てこはそんな自分を『足を引っ張るお荷物』だと思っている。
それは自分を守る臆病さであると同時に、大好きな仲間を失望させたり迷惑をかけたりしたくない、優しい心の現れです。
つまり、彼女が気に病んでいる『失敗』は角度を変えてみれば成長への第一歩であり、必ずしもネガティブな側面だけを持っている、というわけではないわけです。

腐れウジウジ女だったてこも、ぴかりやダイビングと出会って様々な経験を積み重ねる内に、自分を肯定し自分の気持ちをはっきり言葉にできるようになってきています。
今回火鳥先生に対し『ホントじゃない願い』について、『失敗』について自分の考えを言えたのは、様々な『失敗』のポジティブな側面に飛び込み、恐れや震えをぴかりというバディに預けることで手に入れた経験が可能にしたものでしょう。
もちろん、わざわざ道の駅まで足を運び、普段とは違った体験とシチュエーションで生徒の自由な発話を促した、火鳥先生の心遣いがあってのことではあるんですが。
ほんっとあの人、傍若無人を装って気配りの達人だからなぁ……出来た教師だよ。


『ホントじゃない願い』を茫漠と抱えていた過去を『良くないもの』『失敗』として無意識に切り捨てようとするてこを、火鳥先生は『ホントじゃない願いから始まった行動でも、失敗からでも、変化と成長は生まれる』という視点を与えることで、少し教導します。
それはダイビングと短髪グラマー元気っ子に夢中な、具体的で実現可能で実感のある『ホントの願い』をもった現在てこだけを肯定するのではなく、臆病で弱くて、体面だけ取り繕った『ホントじゃない願い』や過去の『失敗』もまた、何がしかの意味があったのだと肯定する視点です。

今回肯定された『小さな一歩』は常に『失敗』した過去と地続きであり、『成功』は『失敗』の対立概念ではない以上、てこの人格形成を『成功』させるだろう現状肯定的で等身大の願いというものは、過去の『失敗』や『ホントじゃない願い』を頭から否定することでは生まれません。
リボンに身近な願いをかけた『本当』の自分だけではなく、短冊に『嘘』の願いをかけた自分も肯定できる視点が与えられたからこそ、泳ぎきれなかったという現在の『失敗』をも肯定し、それを足場にして前に進む姿勢を、てこは捕まえられたわけです。
結果としててこは『100m泳げるようになる』『プール講習に合格する』という、身近で実現可能なヴィジョンをリボンに乗せて物語が終わりますが、その過程で過去の『失敗した自分』『ホントじゃない願い』を火鳥先生が肯定してくれたからこそ、より良い明日に繋がる願いに辿りつけたのだと思います。

この物語では見知らぬ経験は基本的に肯定され、新境地に伴う怯えや震えを忘れず描きながらも、それが生み出す成長や出会いに欠かせない、良きものとして描写されています。
火鳥先生がてこに与えた新しい世界観もそうですし、より身近で物質的なフェティッシュとして、クッキーシューというちょっと変わった甘味が使わえていたのは、気の利いた演出でした。
『失敗』を受け止めた後の更衣室で、スポンサーへ目配せしつつ目薬を指し、自然と涙を流させているところとかも含めて、今回は明言されるものと暗示されるもののバランスが非常に上手く、詩情のあるエピソードだったと思います。


こんな感じで、グレートティーチャー火鳥のさりげない導きによって、てこは小さくて大きな一歩を踏み出しました。
しかしこれは火鳥先生一人の手柄ではなく、くっそめんどくさい黒髪デカ女の内面に踏み込み、手を取って引っ張りあげた女の子の手柄であり、ぴかりに手を引かれて一歩ずつ歩き出したてこ自身の手柄でもある。
ぴかりが自分にくれたもの、それを受け取って歩き出した自分にてこがかなり自覚的であり、自身の現状と成長を言語化できていることは、中盤の恥ずかしいセリフ祭りでもよく分かるシーンです。

手を引っ張られているありがたさ、そこから見えた景色の美しさをけして忘れず、ちゃんとぴかりに伝えられるてこは、元々人格的ポテンシャルは高い子で、きっかけさえあれば花開く子だったんだろうなぁと思います。
しかし同時に、種子の状態で縮こまったままの心はそのきっかけがなければ一生花開くことはないわけで、やっぱ伊豆とダイビングとぴかりに出会ったのは卒啄機といいますか、運命の出会いだったのだなぁと思います。
このアニメは運命の出会いによって生まれた変化を、具体的かつポエジーに描いてくれるのが、出会いが出会いで終わらず人生に発展していく感じが強く出ていて、非常に良いですね。

今回の話は主に火鳥先生がてこを引っ張っていく話なんですが、ぴかりがどれだけてこを見守っているか、気遣っているかも丁寧に描かれていて、主役だけに仕事をさせない豊かさを感じました。
自分の願いではなく親友の願いを思いやるラストのリボンとか、超ベタだけど超最高すぎて、『友情……マジ最高……』ってなった。
アニメ版はともすればダイビング妖怪になってしまうエキセントリックなぴかりが、様々なものを『恥ずかしがる』シーンを強調して演出することで、彼女も心に波が立つ人間なんだと思わせているのが、なかなか上手いよね。
フックとしての仕事を果たしたと判断したのか、序盤より面白顔も減ってきたしなぁ……これは原作からそうだけどさ。


そんなわけで、くっそ面倒くさかった黒髪デカ女が、伊豆とダイビングと友達と師に出会って何を手に入れたのか、確認させてくれるお話でした。
原作の要素を大事に扱いつつ、オリジナルの『願い』を接合させることでアニメ独自の魅力を引き出し、キャラクターの状況整理と説明までやってしまうという、非常に技ありのエピソードだったと思います。
テクニカルなだけではなく、変化し成長するキャラクターへの愛情、彼らが包まれている世界の美しさもしっかり表現され、肌触りと温度のある愛しいお話になっていたのが、最高にグッド。

原作では『成功』していた100m泳に『失敗』したことで、オープンウォーターを目指すてこの目標がよりクリアになり、一種のスポ根(ていうには目標がミニマルだけど、この話はそれでいいと思う)テイストが強調されてもいましたね。
これだけいろいろ試練や努力を積み重ねて描かれると、てことぴかりが初めて海に潜った時の感動と共感は凄く大きくなると思うので、良い再構築だなぁと思います。
『小さな一歩が大事』『成功も失敗も、また来る明日への大事な足場』という話をしっかりやっているので、クライマックスより先があることが事前に示されていることも、凄く良い。
来週は梅雨が開け、ダイビングの季節が本格到来するお話。
一歩ずつ前に進んでいる思春期人魚たちが、今度はどこにたどり着くのか、今からとても楽しみです。